高齢者にとって住みやすい・優しい家が気になる方は多いです。終の住処を探している方や、高齢のご家族と同居する方、または自分たちが高齢になったときのことを考えながら家を検討される方もいます。
高齢者に適した住みやすい家はどのようなものなのか、高齢者におすすめの設備や間取りはどのようなものなのか、気になることは多いでしょう。
今回の記事では、高齢者でも住みやすい家の建て方を紹介します。おすすめの設備や間取りも紹介するので、ぜひ最後まで読んでみてください。
高齢者でも住みやすい家の5つのポイント
高齢者になると、足の不自由や体力の低下など、さまざまなリスクを抱えます。安心を手に入れられる家を建てるために、おさえてほしいポイントを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
①ケガのリスクをおさえる「バリアフリー設計」
バリアフリー設計とは、高齢者を含めたすべての人が安全に生活できる設計のことです。主に、以下の点をふまえて設計をされます。
小さな段差をなくす”フラットな床”
高齢者になると、転倒によるケガによって大きなケガをするケースがあります。小さな段差をなくすことによって、転倒しにくい住みやすい家を建てられます。
また、段差が少なければ、車イス生活になったときでもスムーズに移動ができます。段差を解消することで、介護者の負担も軽くなるでしょう。
体を支える”手すりの設置”
家の各所に手すりを設置することで、転倒を防げるようになります。体を動かすときも、サポートとして使えるので筋力が低下する高齢者に便利な設備です。
手すりがあると便利な場所は以下の通りです。
- 歩くことが多い「廊下」
- 立つときに体を支えられる「トイレ」
- 靴を履いて立ち上がる「玄関」
- 段差を乗りこえる必要がある「浴室」
トイレに手すりをつける場合は、左右の壁にあると介護者と一緒に使えるので便利です。また、浴室・トイレでは安定感があるL字型を採用するのがおすすめ。
転倒を防ぐ”すべりにくい床素材”
フローリングは基本的にツルツルとしているため、高齢者がすべりやすく転倒の危険性がつきまといます。特に水場や、油がはねやすいキッチン周りは、転倒する確率が上がる可能性も。
フローリングを使う場合は、凹凸のある素材がおすすめです。摩擦力がアップするため、転倒のリスクを減らせます。また、掃除のしやすい床素材を採用すれば、汚れても清潔で住みやすい家を保てるでしょう。
ヒートショック(部屋間の温度差をなくす)対策
ヒートショックとは、体温の調節ができなくなり、身体が急激な温度上昇をしたときに引き起こされる症状のこと。症状は、めまいや吐き気など、ときには意識が消失し、命に関わるケースも存在します。
高齢者で怖いのは、寒い脱衣所から、暖かい浴室や浴槽に入ったときに起こるヒートショックです。ヒートショックを防ぐには、家の中の温度差をなくす必要があります。
温度差のない家は、結露の防止にも効果的です。カビの発生の少ない、住みやすい家になります。
②介護や足が不自由になったときのことを考えた「間取り」
高齢者になり、足が不自由になったり介護が必要になると、スペースが必要になります。特に、車イスが移動できるスペースは確保しておきたいところです。
介護者のことを考えると、浴室やトイレは寝室と近いほうが移動距離が短くなり、負担が少なくなります。寝室と浴室が近いと、ヒートショックの予防にもつながります。間取りの設計は、以下のポイントに気をつけてみましょう。
- 車イスが置けるように、ベッドの脇のスペースを広くする
- 廊下・ドアの幅は、車イスが通れる85cm~90cmを推奨
- 介護者と一緒に入れるように、お風呂・トイレは広めに設計
- トイレ・浴室は、寝室から近い場所に配置
- 何かあったときに気づきやすいように、リビング・ダイニングを中心とした間取りにする
- 介護サービスに出かけやすいように、寝室・リビングから屋外へ出る動線を考える
- 車イスでも出入りしやすい、引き戸で開けられるドア
- 車イスでも届きやすいように、低い位置にスイッチを配置
トイレは、できるなら2か所にあるのが望ましいです。1か所にしか作れない場合は、寝室・リビングどちらからも入れるような2ドア設計にしてみるのもいいでしょう。
③ワンフロアで生活できる「平屋」
平屋は、ワンフロア(1階)だけで生活が完結する住居です。生活がしやすく、コンパクトな間取りとなるので家事の動線も良くなります。手頃なサイズと家になるので、掃除が楽になりますよ。
また、高齢者になると、階段の上下移動が困難になる場合があります。その結果、二階をあまり使わなくなってしまう可能性も。階段の移動によって転倒や転落してケガをするリスクも高まります。
デメリットは、広い敷地が必要となる点ですが、高齢者にとって平屋は住みやすい家です。平屋の方がリフォームがしやすく、コストもおさえられるでしょう。
以下の記事で、平屋の魅力や間取りなどを詳しく解説しているので、気になる方は読んでみてください。
④家の維持費をおさえた「低コストのメンテナンス費用」
家を建てて10年以上経つと、家の寿命を延ばすために”メンテナンス”をする必要があります。例えば、家の外壁は10〜15年で修繕しなければいけません。しかし、外壁の修繕は高額になりやすいため注意が必要です。
メンテナンス費用をおさえた住みやすい家は、以下のポイントになります。
- 外壁に寿命が長い塗料・素材を使う(フッ素塗料など)
- 平屋にして足場を組む料金を節約する
- 定期的に家に汚れ・破損などがないかチェックする
- 修理がしやすい・交換パーツの在庫がある住宅設備を選ぶ
- 家の形をシンプルにする
- メンテナンスが少ない施工方法のハウスメーカーを選ぶ
⑤坂道が少なく利便性の高い「立地」
高齢者になると、立地条件も大切になってきます。スーパーや病院など、定期的に足を運ぶ場所が近い場所が望ましいです。車があっても免許返納の可能性があるので、なるべく徒歩圏にしたほうがいいでしょう。
また、坂道が少ないと車イス生活になったときに負担が軽くなります。土地をこれから選ぶ人は、住みやすい家になるように、よく注意して選んでください。
高齢者が住みやすくなる4つの設備
高齢者が住みやすい家にするのなら、設備にも気を使いましょう。ここでは各部屋ごとに、おすすめの設備を紹介します。
①寝室の場合
寝室は、車イスの利用や、夜の行動に配慮した設備が必要です。高齢者に住みやすい家の、おすすめの設備は以下になります。
- 車イスの補助がしやすい「ベッド」
- ベッドまわりに「照明のスイッチ」を配置
- ベッドサイドに、リモコンなどを物を置ける「テーブルやチェスト」
夜間に移動することを考えて、照明のスイッチはベッドのそばに配置してください。テーブルやチェストを置かない場合は、造作によって収納スペースを作成するのもおすすめです。
②浴室・脱衣所の場合
浴室・脱衣所は、濡れた水によって転倒する危険性が高い場所です。対策として以下の設備を搭載するといいでしょう。
- 脱衣所に、転倒の衝撃をやわらげる「クッション性のある床材」
- 座りながら服が着用できる「ベンチ」
- 脱衣所と浴室を温める「暖房設備」
- 浴室内を見やすくする「明るい照明」
- 湯船を寒さから守る「保温性の高い浴槽」
- 乗りこえやすい「段差の低い浴槽(約40cmを推奨)」
- 外からドアが開けやすい「折れ戸・引き戸」のドア
押して開けるドアの場合、高齢者が浴室内で意識を消失し、ドアに寄りかかってしまうと開けられなくなるケースがあるので注意してください。
また、段差の低い湯船は、浴槽の深さも浅くなる場合があるので、慎重に検討してください。浴室・脱衣所は濡れやすいので耐水性のある素材と組み合わせましょう。
③洗面所の場合
洗面台は、車イスが入りやすいように、洗面下の収納スペースをなくすといいでしょう。洗面台の高さも、車イスや座って作業をすることを考えた設計にしてください。
デメリットは、収納スペースが少なくなることです。造作によって収納スペースを作成すれば、空間を活用した住みやすい家ができますよ。
④キッチンの場合
キッチンは自炊をする方なら、毎日使う大事な家事ポイントです。高齢者にとって住みやすい家にする場合、以下の設備があると便利です。
- 火災や火傷の心配が少ない「IHコンロ」
- 操作のしやすい「センサー式自動水栓」
- 掃除が簡単な「油に強い壁」
- 自動で下りてくれる「スイッチ式の吊り戸棚」
- しゃがまなくても取り出せる「高さのある収納」
収納は、キッチンの隣にパントリー(物置き)を設けるのもおすすめ。また、手元を明るくできる照明配置も大事ですよ。
高齢者に優しい家の機能4つ
高齢者が住みやすい家にするには、住宅の機能面も大事です。優れた機能をもつ家なら、誰にとっても優しい住まいとなりますよ。
①高気密・高断熱
高気密・高断熱の家は、すき間が少ない気密性と、保温性が高い断熱性をもつ住宅のことです。外の空気や気温の影響を受けにくいので、ほとんどの部屋で寒暖差がありません。
断熱の等級には「1〜7級」まであり、高断熱の家を目指すのなら「5級以上」を推奨します。
また、窓の断熱性能も重要です。窓には以下のような特徴があります。
単板ガラス窓 | 1枚で仕上げたガラス。断熱性は低いが安価で使用できる。 |
複層ガラス窓 | 1枚のガラスを組み合わせた窓。中空層をもたすことで断熱性能を高めている。 |
エコガラス(Low-E複層ガラス窓) | Low-E膜(遮熱性の高い金属膜)をコーティングした窓。複層ガラスよりも断熱性が高い。 |
トリプルガラス窓 | 3枚のガラスと、2層の中空層をもつ高い断熱性をほこる窓。Low-E膜を組み合わせると、さらに断熱性が上がる。防音性にも優れてる。 |
複層ガラスの中空層に入れる期待も、大切なポイントです。気体は、以下の4つのものがあります。
- 乾燥空気…乾燥した空気によって結露を防ぐ
- アルゴンガス…空気中にも存在する熱伝導率が低いガス
- クリプトンガス…熱伝導率がとても低い希少なガス
- 真空…中空層から空気を抜いた状態
断熱性能は、真空がもっとも高く、次いでクリプトンガス→アルゴンガス→乾燥空気の順になっています。
窓は、サッシの素材も重要です。木製サッシがもっとも断熱性が高く、次いで樹脂サッシ→アルミ樹脂複合サッシ→アルミサッシと断熱性が変わります。ただし木製サッシは、定期的なメンテナンスを必要とするので注意してください。
また、複層ガラスにはスペーサーと呼ばれる中空層を維持する部品があります。断熱性を高めるのなら樹脂スペーサーを選びましょう。
熱の出入りが多い「玄関ドア」も、温度差の軽減に役立ちます。高断熱の玄関ドアも販売されているので、要チェックです。
暖かい家は、高齢者のヒートショックの危険性を軽減できるだけでなく、光熱費の削減にもつながります。一年中快適にすごせるので、ストレスフリーな住みやすい家ができますよ。
②緊急ブザー
緊急ブザーとは、家のなかで高齢者に何かあったとき、外部に異常を知らせる機能のことです。緊急ブザーは、部屋の外にいる人に知らせるタイプと、提携しているセキュリティ会社のガードマンが駆けつけるタイプがあります。
緊急ブザーを設置した方がいい場所は、以下のポイントです。
- 浴室
- 寝室にあるベッドのそば
- トイレ
緊急ブザーは人目につきにくい場所に設置してください。他にも、長い時間いる場所(リビング・私室など)も緊急ブザーがあると便利です。
③フットライト
高齢者が夜間に転倒するリスクを下げられるフットライトは、できるなら設置してほしい機能です。フットライトを設置する場合は次の機能があると利便性が上がります。
- 夜間に、人感センサーで自動点灯する
- 点灯時間(寿命)が長い電球
- トイレと寝室をつなぐ配置
電球は、寿命が長く熱をもたないLED照明がおすすめです。ベッドサイドから廊下、トイレの動線にフットライトがあると夜間も安心して歩けますよ。
④玄関のスロープ
玄関は、車イスが通りやすいようにスロープを設けましょう。傾斜はなるべくゆるやかで(1/15勾配を推奨)、手すりつきのものがいいでしょう。
ただし、ゆるやかな傾斜はスロープの距離が長くなりやすく、敷地や資金に余裕がないと設置できない可能性があります。
無理にスロープを設置せず、移動式のスロープを使ったり、玄関をフラットに設計するなど、工夫次第でカバーが可能です。
高齢者が住みやすい間取り|実例3選
年をかさねても住みやすい家は、快適で安心感のある住宅です。実際の間取りはどうなるのか、気になる方も多いでしょう。ここでは、高齢者が住みやすいバリアフリー設計の住宅を紹介します。
①【2LDK】インナーガレージで車イスの乗降が楽になる平屋
施工会社 | レモンホーム |
価格 / 坪単価 | 3,000万円 / (84.7万円/坪) |
延床面積 | 35.4坪 / 117.11㎡ |
敷地面積 | 71.8坪 / 237.44㎡ |
玄関にスロープを設置した、高齢者でも住みやすい家です。インナーガレージにすることで、車イスで乗り降りしても雨に濡れにくい仕様となっています。
家の中のドアは引き戸で統一しているので、車イスで移動する際も楽です。トイレは玄関と洗面・脱衣室どちらからも入れるようになっています。
②【3LDK】断熱性が高いストレスフリーの平屋
施工会社 | ワカバヤシ(パナソニックビルダーズグループ) |
価格 / 坪単価 | 2,228万円 / (74.1万円/坪) |
延床面積 | 30.1坪 / 99.51㎡ |
敷地面積 | 119.3坪/394.68㎡ |
和モダンとバリアフリーを融合した、高齢者でも住みやすい家です。ゆるやかな玄関スロープを設置し、車イスで家に出入りしやすい住宅となっています。
リビングからトイレ・脱衣所に行けるようになっており、生活動線も良い間取りです。収納スペースもたっぷりなので、荷物の整理がしやすいでしょう。
③【3LDK+ロフト】回遊動線により移動がしやすい平屋
施工会社 | 近藤建設 |
価格 / 坪単価 | 1,500万円~1,999万円 / (49.5万円~66.0万円/坪) |
延床面積 | 30.3坪 / 100.20㎡ |
敷地面積 | 60.7坪 / 200.68㎡ |
I型キッチンにすることで回遊動線を作り、どこへ行くにも不便のない家です。回遊動線にすれば、家のなかで筋肉を刺激する歩行トレーニングができますよ。
平屋に不足しがちな収納は、ロフトを作ることで解決。畳コーナーに小上がりを設置することで、ベンチの役割も果たします。
高齢者が住みやすい家でセカンドライフを満喫しよう
高齢者でも住みやすい家の特徴を紹介しました。年を重ねると、どうしてもケガによるリスクが高まります。設計時に”安心”をつくることによって、住みやすい家が実現するでしょう。
何かあっても不便のない家を建築すれば、いつまでも心地よくすごせます。高齢者に優しい家を建てて、幸せな老後にしましょう!
高齢者でも住みやすい家のポイント
- 小さな段差をなくす
- 手すりを家の各所に設置
- 床材はすべりにくい素材を採用
- 部屋間の温度差をなくす
バリアフリー設計は、高齢者にとって住みやすい家です。転倒対策のフラットな床や、手すりの設置。ヒートショック対策に温度差をなくすのも重要です。
高齢者が住みやすくなる設備
- ベッドサイドはスペースをつくる
- 脱衣所・浴室に暖房があるとヒートショック対策に
- 洗面下の収納スペースは車イスのために空けておく
- 火災の心配が少ないIHヒーターが便利
共通しているのは、車イスが通れるスペースを確保しておくこと。車イスが動きやすい家は、高齢者に優しい家といえるでしょう。
高齢者に優しい家の機能
- 高気密・高断熱でヒートショック対策
- 緊急ブザーを設置すれば、万が一のときも安心
- フットライトがあれば、夜のトイレが行きやすくなる
- 玄関のスロープは無理がなければ推奨
高気密・高断熱の家は、オールシーズン活躍してくれる機能です。緊急ブザーを外部につなげるようにすれば、急病時も連絡がしやすくなります。玄関スロープは、敷地があれば設置してみましょう。